大倉邦彦筆「吾位非王侯 遊心天地外~」
- 2022.03.18
沿革史資料№12354
(翻刻)
吾位非王侯 遊心天地外
俗談巳聞厭 唯欲神為泰
昭和五年正月 邦彦
(読み)
吾が位、王侯に非ざるも 心を天地の外に遊ばす
俗談、已に聞きて厭(あ)く 唯だ神にして泰(やす)らか為らんと欲するのみ
(大意)
私は王侯の位にあるものではないが、心は天地の外、つまり、大宇宙を巡っている。世俗的な話はこれまで十分に聞いてきたが、正直もう飽き飽きしている。私は、ただ、大宇宙の心(神)と一体となり、心安らかになりたいだけである。
(補足)
第一句と第三句では俗社会のこと(「王侯」「俗談」)が書かれており、第二句と第四句では、俗社会を離れた精神的な境地・希望が書かれています。(以上、伊香賀隆)
(背景)
昭和五年は、大倉邦彦が研究所の建設を始めた直後であり、正月の書き初めとして、「使命事業」実施の決意表明をしたものと推測している。
その決意とは、以下の通りであろう。
一介の紙問屋の社長に過ぎない大倉邦彦であるが、その精神は日々の商売活動を離れて、宇宙心と一体となっている。新聞に研究所の設立を発表した時から、数多くの賛同や批判にさらされて嫌な思いもしてきたが、そうした俗事を離れて、ただ宇宙心から自身に与えられた使命を誠実に果たすことによって、大宇宙(宇宙心)と一体で居つづけたいと願うのみである。
模範的な崩しと、四十八歳の若さ・情熱がみなぎる勢いのある筆致、文字のバランスも良く、大倉邦彦の揮毫の中でも白眉の一本である。(平井誠二)