閉じる

大倉精神文化研究所

横浜市港北区地域の研究

第139回 校歌の効果はいつまでも

2010.07.01

地域を歌った歌としては、なんといっても小学校の校歌が最もなじみ深いものでしょう。大人になっても口ずさんでいる方が多いのではないでしょうか。区内にある25の小学校(第39回参照)すべてに校歌があります。

大曽根小学校(おおそねしょうがっこう・昭和40年開校)・師岡小学校(もろおかしょうがっこう・昭和47年開校)などは開校と同時に校歌が制定されましたが、すべての小学校で、開校当初から校歌があったわけではありません。篠原西小学校(しのはらにししょうがっこう)・綱島東小学校は開校3年で、菊名小学校・新吉田小学校・新羽小学校(にっぱしょうがっこう)・日吉南小学校・太尾小学校(ふとおしょうがっこう)は開校5年で、綱島小学校は開校10年を記念して校歌を制定しています。戦後に開校した小学校では、校歌が出来る以前はどこも横浜市歌を歌っていたようです。

日吉台小学校、高田小学校(たかたしょうがっこう)、新田小学校(にったしょうがっこう)、大綱小学校(おおつなしょうがっこう)、城郷小学校(しろさとしょうがっこう)は、戦前に開校した学校です。この内、城郷小学校は明治33年(1900年)の創立ですが、同校副読本『城郷』(しろさと)によると、昭和35年(1960年)に創立60周年事業として今の校歌を作るまでは、「横浜線の一偉観(いちいかん) 赤い瓦(かわら)の学舎(まなびや)に 集まる健児(けんじ)千余人(せんよにん) 城郷校(しろさとこう)の健児らぞ」という歌詞の校歌を歌っていたそうです。しかし、『創立70周年記念誌』に掲載された座談会では、非常によく似た歌詞の歌を、大正(1912~26年)頃に学校の応援歌として歌っていたと話されています。前回紹介した新田小学校(にったしょうがっこう)の校歌は、昭和28年(1953年)に創立60周年記念として作られたものですが、それ以前は曽我鶴雄先生(1925~33年在職)が作った「新田小学校応援歌」が歌われていたようです。日吉台小学校では、昭和10年(1935年)制定の由緒ある校歌を今でも歌っています。戦前に作られた古い校歌についてはよく分かりませんでしたので、今後の課題としておきます。

さて、校歌には、伸びゆく子供たちに対する、学校関係者や父兄等の願いが込められています。歌詞の内容は、学校目標や、豊かな自然環境・歴史・文化など郷土への誇り、日本や世界に貢献できる人間に成長してほしいことなどが歌われています。そうした校歌の作詞・作曲にはどの学校も苦労されたようです。校長先生や教育委員会の人が作った場合もありますし、駒林小学校(こまばやししょうがっこう)の校歌のように、開校時の全職員が作成に関わった例もあります。

専門家に依頼した例としては、大綱小学校(おおつなしょうがっこう)の校歌が歌人佐佐木信綱(ささきのぶつな)の作詞であることは第83回で紹介しましたが、作曲を担当したのは、日本を代表する作曲家の一人である信時潔(のぶとききよし)でした。信時は港北小学校の校歌も作曲しています。横浜出身の作曲家高木東六(たかぎとうろく)は大曽根小学校と太尾小学校(ふとおしょうがっこう)の校歌を作曲しています。小机小学校の校歌は、岩谷時子(いわたにときこ)作詞、弾厚作(だんこうさく)作曲です。この二人は、加山雄三(かやまゆうぞう)のヒット曲「君といつまでも」を作ったゴールデン・コンビです。弾厚作とは、ご存じのように実は加山雄三の作曲家としてのペンネームです。余談ですが、加山雄三さんは、本誌が発行される7月1日に茅ヶ崎市(ちがさきし)から市民栄誉賞を受賞されることになっています。その受賞理由の1つに、茅ヶ崎市内の小学校の校歌を作曲したことが挙げられています。

昭和37年(1962年)に開校した下田小学校(しもだしょうがっこう)は、かつて円形4階建ての校舎が有名で、町のシンボルでもありました。校歌の1番に「青い空 広やかに 円形校舎そびえたつ 楽しい学校 なごやかな わが下田」と歌われています。円形校舎は平成4年(1992年)に取り壊されましたが、卒業生にとっては今でも思い出の校舎です。歌詞の意味を子供たちに語り継ぎ、今後も歌い続けていただきたい校歌です。

学校から見える景色としては、富士山がよく歌われています。その数は、なんと区内の小学校の約半数にあたる12校(大綱・菊名・北綱島・港北・小机・駒林・篠原・高田・綱島・綱島東・日吉南・太尾)にもなります。

今回紹介した校歌の多くは、各学校のホームページを開くと、ピアノ等の伴奏で曲を聴くことが出来ます。音楽に合わせて歌ってみませんか、懐かしい思い出がよみがえるはずです。

小学校で作られるのは校歌だけではありません。高田小学校(たかたしょうがっこう)では「高田音頭」、新田小学校では「新田っ子百年音頭」「創立六十周年歌」が作られています。

小学校の校歌以外にも、幼稚園や保育園の園歌、中学校・高等学校等の校歌、会社の社歌など、港北地域で作られた歌、港北地域を歌った歌はたくさんあります。いずれ機会があればご紹介しましょう。

記:平井 誠二(大倉精神文化研究所研究部長)

(2010年7月号)

シリーズわがまち港北の記事一覧へ