第17回 大倉山記念館は人間だ! -その1-
- 2000.05.01
文章の一部を参照・引用される場合は、『わがまち港北』(『わがまち港北』出版グループ、2009年7月)を確認の上、その書誌情報を典拠として示すようお願いいたします。
さて、前回の続きです。大倉邦彦(おおくらくにひこ)は、大倉精神文化研究所本館(横浜市大倉山記念館)を人間に見立てて作りました。これは、どういうことなのでしょうか。
大倉山記念館の構造は、高さ約25・5メートルの塔がある中央館と、ホール(殿堂)、ギャラリー(回廊)、東館、西館の五棟から出来ています。
まず、中央館から見ていきましょう。正面玄関を入ったところが「エントランスホール」です。かつては、ここを「心の間(こころのま)」と呼んでいました。「心の間」の中央には、音楽会などが開かれるホール(殿堂)へ続く大きな階段があります。約21メートルの吹き抜けの天井を見上げると、四方の窓がステンドグラスになっていて、黄金色(こがねいろ)の光が射し込んでいます。曇りや雨といった天気の悪い日でも、一日中、上から明るい光が射し込むようになっていて、まるで照明をつけているかのようです。
『所内しるべ』の説明では、そこで明治天皇の御製(ぎょせい)を引用しています。
さしのぼる朝日の如(ごと)くさわやかに もたまほしきは心なりけり
さし登ってくる朝日のごとくさわやかに照り輝く光、これが塔の上から降り注ぐ光であり、これは雨の日でも晴れの日でも必ず差し込んできます。その清浄な光が「誠の心(まことのこころ)」、つまり雑念や穢(けがれ)をうち払った後の清明心(せいめいしん)を表しているのです。
そして、窓の下には周囲に鷲(わし)と獅子(しし)の彫刻が8体ずつ、計16体がぐるっと囲んでいて、上から見下ろしています。この鷲と獅子は、よく見ると、全て別々の彫刻で、形も向きも違っています。そして、下から見上げると必ずどれかと目が合うようになっています。鷲は鳥の王者、獅子は百獣の王者であり、共に神の化身や神の使いと考えられてきた生き物です。
この彫刻は、神や仏はどこにいても必ず人間を見守っているということを表しています。人間に対して嘘はつけても神仏の目から逃れることはできない、常に誠の清い心を持たなければいけないのだよということをそこで表しています。
このように「心の間」で、人間の心を表しているのです。
記:平井 誠二(大倉精神文化研究所専任研究員)
(2000年5月号)
- 【付記1】 現在のステンドグラスは二代目で、かつてはもっと濃い黄金色に輝いていたそうです。
- 【付記2】 獅子と鷲の彫刻は、東京美術学校(東京芸術大学)教授で彫刻家の水谷鐵也(みずのやてつや)氏が制作したもので、テラコッタと呼ばれる素焼き製です。さらに水谷鐵也氏は、建物正面玄関の破風に飾られたレリーフ(八稜鏡を二羽の鳳凰が左右から囲むもの)も作製しています。これらの彫刻は、長野宇平治のプレ・ヘレニック様式とは関係ありません。