第172回 まちの中のサイン―「大倉山さんぽみち」って何だろう?―
- 2013.04.01
文章の一部を参照・引用される場合は、『わがまち港北2』(『わがまち港北』出版グループ、2014年4月)を確認の上、その書誌情報を典拠として示すようお願いいたします。
先月行われた大倉山観梅会には、今年も多くの人が訪れました。梅林の梅は観梅会の日どりを知っていたのではと思う程に紅白見事に咲き誇り、人もお店も梅も大賑わいの2日間となりました。梅の後は桜です。梅の開花は少し遅めでしたが、桜は逆に少し早めの開花となりました。4月6日には、第23回綱島桜まつりも開催されます(雨天の場合は7日)。春を迎えて、自然散策や町歩きにもちょうどいい季節となりました。昨年1月に発足した港北ボランティアガイドでは、その時々に合わせて様々なガイドツアーを企画しています。身近な場所もガイドさんの説明を聞きながら歩けば、新しい発見があるかも知れません。
さて、大倉山・菊名・新横浜などを歩いていて、「大倉山さんぽみち」と刻(きざ)まれた説明板や、銀色の半球に地図が描かれた道標(みちしるべ)などを見たことはないでしょうか。筆者は「さんぽみち」というからには、きっと過去に何かの目的で整備された散策コースなのだろうとは思いましたが、至る所で見かけるこの道標の存在が、ずっと気になっていました。そこで今回調べてみることにしました。
「大倉山さんぽみち」の発端は、昭和56年(1981年)に策定された「よこはま21世紀プラン」の港北区区別計画の中に「大倉山プロムナード」として登場しています。「プロムナード」はフランス語で、散歩や散歩道・遊歩道の意味です。
この「大倉山さんぽみち」の計画は、区制50周年を迎えた平成元年(1989年)に実現しました。この時期は、大倉山記念館の開館や大倉山公園の整備、大倉山エルム通り商店街の整備、新田緑道や太尾堤緑道などの遊歩道の整備、横浜アリーナの開業、横溝屋敷(鶴見区)の公開など、様々な事業が進められた時期でもあります。そうした施設整備の動きに、港北区の中心を流れる鶴見川の水と丘陵の緑をつなぐネットワークづくりの動きの両方が合わさって生まれたのが、この「大倉山さんぽみち」です。
「大倉山さんぽみち」は1周11.5キロ、大倉山駅・菊名駅・新横浜駅の3駅を拠点として、区内の自然や歴史・文化に触れることができる5つのルートがある散策コースです。そしてコース内の各所に、3種類のサインが設置されています。3種類とは、①駅や重要な場所に設置する総合案内板、②ルートの出入口や分岐点などに設置する道標、③是非知って欲しいという魅力のある場所に設置する説明板の3種類です。
さて、サインというと「合図」や「署名」という意味が頭に浮かぶかも知れませんが、「看板」「標識」といった意味もあります。まちの中のサインには、それを見る人に情報を伝えるという役割の他に、まちの魅力やイメージをつくるという役割もあります。
『(仮称)大倉山プロムナード整備基本計画策定調査報告書』(昭和62年3月)を見ると、「大倉山さんぽみち」のサインは後者の役割を重視していたことがわかります。そしてその目的は、サインを通して地域の自然や文化を学び、自分たちの住むまちに親しみを持つこと、そしてまちの新しい魅力を発見して欲しいというところにありました。
また、サイン自体がまちの景観を生み出すことから、そのデザインや素材にも気を配っています。報告書には、「大倉山記念館や神社建築にみられる〈柱〉(歴史の象徴)」をモチーフとし、「近代都市・横浜と関わりの深い〈鉄〉(近代の象徴)を時間に耐え、歴史性を帯びる鋳物(いもの)に加工する」とあります。さらに必要な場合には、設置場所に対応したデザインのサインを作るとも書かれています。その設置場所に対応して作られたサインが今も大倉山記念館の前にあります。記念館坂から階段を上がってアプローチを抜け、記念館の建物を眺めるのに丁度良いと思った場所で足元を見てみて下さい。その近くに埋め込まれている記念館の説明板は、さんぽみちの整備に合わせて作られたサインです。
最近では平成23年12月に、大倉山夢まちづくり実行委員会によって、大倉山記念館周辺の記念館坂・梅見坂・オリーブ坂の3つの坂に、統一デザインの看板が設置されました。これは、看板を見た人に「坂道の愛称」を知ってもらい、地域への愛着心を持って欲しいという思いから設置されたものです。
また鶴見川沿いには、市内の流域5区の協働による「鶴見川流域共通サイン」が設置されています。これは見た人に、川のどのあたりにいるのかを知らせることと、近くの自然環境や施設等の情報を伝えて、楽しく散策できるようにすることを目的に設置されました。普段何気なく通り過ぎてしまうまちの中のサインも、設置の経緯や意図を知って見ると、また違った印象で見えてくる気がします。
そこで筆者は、「大倉山さんぽみち」のサインを追って全コースを歩いてみることにしました。その話は次回に。
記:林 宏美(大倉精神文化研究所職員)
(2013年4月号)