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大倉精神文化研究所

横浜市港北区地域の研究

第222回 地域資料の収集と公開

2017.06.01

文章の一部を参照・引用される場合は、『わがまち港北3』(『わがまち港北』出版グループ、2020年11月)を確認の上、その書誌情報を典拠として示すようお願いいたします。


地域では、日々様々な刊行物が生み出されています。それらを収集し公開することは、地域図書館の重要な使命の1つです。しかし、図書館員が全ての情報を集めて、独自に収集することには限界があります。自費出版の本その他、お持ちの資料があれば、図書館へ寄贈していただけると助かります。図書館で既に所蔵していても、利用が多い本は傷むのも早いので、副本が欲しいことがあります。

横浜市立図書館では、下記のお願いをしています。

次に挙げる本をお持ちの場合や、新しく出版された場合は、ぜひ図書館へご寄贈ください。

◎横浜市や神奈川県について書かれた郷土資料

◎横浜市に関係のある学校史、社史、町内会史、記念誌

各区にある図書館では、特にその区内の資料を重点的に集めています。港北図書館では、港北区内で刊行された本を集めています。

先日、下田町(しもだちょう)の寺田貞治(てらださだはる)さんより、所蔵資料の一部を港北図書館、日吉台(ひよしだい)地下壕保存の会、大倉精神文化研究所の三者にご寄贈いただきました。

寺田さんは、日吉にある慶應義塾高等学校の地学科教諭(きょうゆ)を昭和33年から平成10年(1958~98年)まで務められました。その勤務のかたわら、キャンパスの地下に掘られた海軍の地下壕を調査し、平成元年(1989年)3月に日吉台地下壕保存の会を立ち上げ、事務局長として長い間会を支えてきました。現在、地下壕の存在は多くの区民の知るところとなり、戦争遺跡としての保存が図られていますが、それは寺田さん達が始めた活動によるものです。

また、お子さんが通われた下田(しもだ)小学校や日吉台西中学校のPTA役員となり、委員として記念誌発行にも携わりました。地域では、昭和62年(1987年)に下田町自治会に文化部を創設し、平成11年(1999年)にNPO法人横浜の自然と歴史を守る会、平成15年(2003 年)に港北郷土史会を設立するなど、地域の自然や歴史・文化を学び、次世代に伝えていく活動を長く続けられました。

こうした活動をする中で集めた資料は膨大な量になりますが、丁寧に整理し保存してこられました。最近、活動の第一線を引かれたことから、ご家族の方と相談して、その貴重な資料の一部、港北区域に係わるものを前記三団体に寄贈されたわけです。

日吉台地下壕保存の会には、会の発足初期の貴重な資料を沢山寄贈されました。港北図書館と大倉精神文化研究所では、その他の地域資料を分けて受贈いたしました。その中には、これまで存在が知られていなかった資料が沢山含まれていました。

たとえば、慶應義塾高等学校は、昭和23年(1948年)4月に慶應義塾第一高等学校、慶應義塾第二高等学校として麻布新堀(あざぶしんぼり)町(港区)で開校し、翌昭和24年4月に統合して誕生しました。同年10月1日、GHQに接収されていた慶應義塾大学日吉キャンパスが返還されると、高等学校が日吉に移転することとなり、10月11日より授業が始まりました。

その後同校では、学校誌を十年毎に編纂してきましたが、これまで市の図書館には『六十年』しか所蔵されていませんでした。今回、全て(『十年』『二十年』『三十年』『四十年』『五十年』『六十年』)を寄贈していただきました。

また、硬式野球部が、平成20年(2008年)春の第80回選抜高等学校野球大会と、同年夏の第90回全国高等学校野球選手権記念大会に出場したときの記念誌も寄贈していただきました。いずれ詳しくご紹介しましょう。

地域の学校誌も沢山いただきましたが、新出資料としては、駒林(こまばやし)小学校の『創立十周年記念誌』、日吉台西中学校が昭和52年(1977年)4月に開校するまでの経緯を記した『日吉台西中学校の誕生』と創立十周年記念誌『伸びゆくもの』、樽町(たるまち)中学校の創立十周年記念誌『しょうぶ』が目を引きました。

下田町には、サンヴァリエ日吉という大きな団地があります。このサンヴァリエ日吉は、昭和32年(1957年)に日本住宅公団の日吉団地として建設されたものです。昭和37年(1962年)に設立された自治会は、様々な活動を展開して、港北地域に大きな影響を与えてきました。市の図書館には、自治会が発行した入居30周年記念誌『ひよし30年の足音』が所蔵されていますが、今回新たに、『ひよし20年の思い出』『入居40周年記念誌』が寄贈されました。日吉団地とその自治会の歴史についても、いずれ回を改めて詳しくご紹介しましょう。

皆様も一度書棚を確かめてみてください。地域にとってのお宝が眠っているかも知れませんよ。

記:平井 誠二(公益財団法人大倉精神文化研究所所長)

(2017年6月号)

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