第234回 帰ってきた地域の賑わい―港北区三大祭り―
- 2023.04.01
文章の一部を参照・引用される場合は、『楽遊学』(港北区区民活動支援センター情報誌)の掲載号を確認の上、その書誌情報を典拠として示すようお願いいたします。
筆者は仕事の行き帰りに、横浜アリーナのそばを歩くことが多いのですが、昨年後半からアリーナへ向かう人波や来場者の行列を見る機会が増えました。個人的には、その日行われるイベントによって新横浜駅周辺の雰囲気がガラリと変わるのを楽しんでいます。
横浜アリーナを会場とするような大規模イベントから地域のお祭りまで、コロナ禍で中止やオンライン開催となっていたさまざまな催しが、ようやくリアル開催(現地開催)として戻ってきました。港北区三大祭りと呼ばれる大倉山観梅会・綱島桜まつり・小机城址まつりも中止が続いていましたが、今年は久しぶりにその全てが開催されます。
三大祭りの先陣を切ったのは、2月25日、26日に開催された大倉山観梅会です。観梅会が行われる大倉山の梅林は、元々東急が東横線の乗客獲得を目的として整備したものです。昭和6年(1931年)に開園し、戦前・戦後を通して梅の名所として知られてきました。その後、昭和の終りに横浜市が東急から土地を取得して再整備を行い、大倉山公園梅林として平成元年(1989年)に再オープンします。現在の大倉山観梅会は、この時から始まったもので、今年が第35回です。しかし梅林でのお祭りはそれ以前から行われており、大倉山出身の漆原順一港北区長は今年の観梅会開会式の挨拶の中で、子どもの頃から梅の開花やお祭りを楽しみにしていたと話していました。梅林の詳しい歴史は港北区のホームページにまとめられていますので、ご覧ください。
3年ぶりとなった大倉山観梅会は天候に恵まれ、梅もほぼ満開という最高のタイミングで大盛況のうちに終了しました。研究所入口前のスペースにも商店街からの出店が並び、どこもかしこも人でいっぱいでした。久しぶりに見る大倉山の賑わいに、筆者も感慨一入でした。
大倉山観梅会の次は綱島桜まつりです。桜まつりは綱島公園を会場として平成2年(1990年)に始まり、令和2年(2020年)に節目の30回となるはずでしたが、4年間中止を余儀なくされました。
綱島公園について、昭和37年(1962年)刊行の『ヨコハマ散歩』には、「起伏に富んだ丘陵の自然を公園とし、故平沼亮三の寄贈になる茶室も園内にあって梅の頃ともなると、大倉山と相対して共に梅花の名所となり雅客の来訪も繁く...」と書かれていました。昔は桜よりも梅の名所であったようです。
茶室は、昭和27年(1952年)に造られ、戦前に桃の一大産地だった綱島の歴史にちなんで「桃里庵」と名付けられました。しかし、昭和31年(1956年)刊行の『観光綱島・大倉山への道』(綱島大倉山観光協会・横浜港北新報社共編)には、「今日、鼠の巣であり、それでは残念な話である」とあり、あまり活用されなかったようです。桃里庵は粟田添星という茶道研究家が設計した茶室第一号で、その著書『茶室考』に若干記述がありますが、詳細はよくわかりません。もう少し調査を続けたいと思います。
綱島公園は太平洋戦争中の昭和19年(1944年)に、防空公園として開設されました。戦後は昭和20年代からプールやテニスコート、展望広場や子どもの遊び場などが設けられ、地域の人が集い楽しめる公園となります。その後昭和62年(1987年)から再整備が行われ、平成3年(1991年)には綱島公園こどもログハウス「モッキー」がオープンしました。桜まつりが中止となっている間には公園で地域の方の手で花壇の整備も行われています。この原稿は綱島桜まつりの前に書いていますが、お祭り当日はもちろん、この春の綱島公園は花の彩りと人とで賑わうことでしょう。
三大祭りの最後を締めくくるのは、小机城址まつりです。4月23日開催予定の第28回小机城址まつりは、綱島桜まつりと同じく4年ぶりとなります。小机城址まつりといえば武者行列パレ―ドと出陣式ですが、今年は規模を縮小しての開催とのことで、パレードのコースが短縮されます。スタートは三会寺から雲松院に、ゴールは小机城址市民の森から金剛寺となるようです。雲松院は、後北条氏の時代に小机城代を務めた笠原氏の菩提寺ですので、墓所に眠る一族の方々は今回のコース変更を喜んでいるかも知れません。小机城址では今年1月から2月にかけて2回目の試掘調査が行われ、2月11日には新たな成果を伝える現地説明会が行われる予定でした。前日の降雪で残念ながら説明会は中止となりましたが、横浜市のホームページに当日配布予定だったパンフレットが掲載されています。興味のある方はご覧ください。一歩ずつ着実に進む小机城の実態解明と城址まつりの復活で、地域はさらに盛り上がっていくことでしょう。
地域の賑わいが戻りつつあることに大きな喜びを感じます。この賑わいが当たり前の日常に戻っても、感じた喜びは忘れずにいたいものです。
記:林 宏美 (公益財団法人大倉精神文化研究所図書館運営部長兼研究員)
(2023年4月号)