第60回 鶴見川の新しい流れ
- 2003.12.01
文章の一部を参照・引用される場合は、『わがまち港北』(『わがまち港北』出版グループ、2009年7月)を確認の上、その書誌情報を典拠として示すようお願いいたします。
この連載も満5年、60回を数えましたが、当初よりの方針として、港北区域に限定した記述に徹してきました。ですから、興味深いことでもあえて書かなかったことがたくさんあります。しかし、今回だけはその方針を撤回します。それは、『鶴見川流域誌』(平成15年3月31日発行)を紹介するからです。この本は、国土交通省関東地方整備局の京浜工事事務所が企画・発行したものです。同書は、「流域編」「河川編」「資料編」の三編から成り、三編の「要約編」と「CD-ROM編」が付けられています。A4判で1400ページを超える大著です。本書は非売品なので、個人的に購入することは出来ませんが、港北図書館を初めとして流域の主要図書館等には寄贈され、すでに公開されています。もちろん大倉精神文化研究所図書館でも閲覧できます。
横浜市立図書館の蔵書検索サービスで探しますと、鶴見川に関する図書は、本書を含めて120件も見つかります。鶴見川は、その他にも、流域の各自治体史や様々な本の中で取り上げられていますが、本書が画期的なのは、鶴見川の源流から河口まで、その全流域235平方キロメートルを一つの文化圏としてとらえ、そこに住む人々の古代以来の生活や文化、自然、治水、環境保全、河川管理、将来へ向けた取り組みなど、住民と鶴見川との関係を総合的に論じている点にあります。
古来、人々は河川の流域に居住し、生活圏を広げながら生活をしてきました。そうした住民の生活とは別に、大和朝廷以来歴代の王権は、行政区域を設定し、支配を行いました。私達は歴史を語る時に、各時代の行政区域で考えてしまいがちですが、本書は生活圏としての流域全体を対象としています。
京浜工事事務所は、鶴見川の河口から小机に架かる第三京浜の橋(鶴見川橋)の手前まで、17.4キロの間を管理区間としているだけで、流域全体では他に5自治体(神奈川県、横浜市、川崎市、東京都、町田市)が関係しています。京浜工事事務所は、その管理区間の枠にとらわれず、鶴見川の流域全体を1つの文化圏として把握し、本書を編纂しています。これまで全国の各自治体史等が、行政区域だけに限定して編纂・記述してきたのに対して、画期的な試みといえましょう。
本書は内容が多岐にわたっているので、まるで「鶴見川大百科事典」といった感じですし、大著なので読みたい箇所を探すのが大変ですが、CD-ROMをパソコンに入れて用語検索をすると全編の中で関連箇所が全てリストアップされ、その本文を読むことが出来ます。これも新しい試みです。
さて、平成6年(1994)1月より始まった鶴見川多目的遊水地(愛称、新横浜ゆめオアシス)の工事(第10回参照)が、平成15年(2003)3月に完了しました。京浜工事事務所は、これと期を合わせるかのように、4月より「京浜河川事務所」へと名称を変更しました。多目的遊水地での工事は現在も続いていますが、これは、横浜市が「新横浜公園」として2010年の開園をめざして整備工事を進めているものです。多目的遊水地は6月15日より運用を始めており、11月上旬までに1回(8月15日)だけ越流堤を越えて遊水地内へ水が入ったことがあります。治水対策としての遊水地が初めてその機能を発揮したことになります。
多目的遊水地内にあった鶴見川多目的遊水地インフォメーションセンター(平成8年4月~14年9月)は、装いも新たに今年9月23日に「鶴見川流域センター」(電話475-1998)としてオープンしました。小机に新築された京浜河川事務所遊水地管理センターの1・2階部分がそれです。2階の玄関からはいると、広い床いっぱいに貼り付けられた流域の航空写真が目を引きます。縮尺約4000分の1で、よく見ると各家が一軒ずつ識別できます。自分の家や学校、職場、散歩道などを探すと楽しいです。パソコンを使ってゲーム感覚で鶴見川の勉強をしたり、関連図書や水槽に泳ぐ魚たちを見ていると、時の経つのを忘れてしまいます。見学無料ですから、家族で気楽に楽しめます。ちなみに、3・4階は、京浜河川事務所綱島出張所(大綱橋の傍から引っ越しても名前は変わりません)です。
記:平井 誠二(大倉精神文化研究所専任研究員)
(2003年12月号)